Interview/株式会社酉島製作所

離れた現場のトラブル対応のためにDX導入、人材不足・若手育成の一助にも

産業本部 産業統括部産業統括課 グループリーダー 藤本 陽太

Interview/株式会社酉島製作所

離れた現場のトラブル対応のためにDX導入、人材不足・若手育成の一助にも

産業本部 産業統括部産業統括課 グループリーダー 藤本 陽太

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創業100年を超える大阪の老舗ポンプメーカー酉島製作所では、本社から離れた現場のトラブル対応に「遠隔支援」を活用されています。トラブル対応のためのDX導入が既存課題の解決につながる一方で、若手育成や働き方改革の面でも効果を発揮しているといいます。業務効率化の範疇にとどまらず、人材不足・若手育成など社会課題の解決へとつながる活用事例について酉島製作所のサービス管理部 武田様、産業統括部 藤本様、佐野様(旧部署)に伺いました。

現場におけるトラブル対応の課題

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現地訪問が必須となるトラブル対応業務の効率化を模索

インタビューイメージ画像PC

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DXを導入しようと考えたきっかけは?

藤本:我々はポンプメーカーで、世界各地にお客様がいらっしゃいます。ポンプは機械部品のため、発熱による停止や性能不良等さまざまなトラブルが起こることがあります。各地に営業拠点を構えてはいるものの、すべての拠点に技術者がいるわけではないので、トラブルが起こった際に対応可能なスタッフがすぐに駆けつけるのは難しいのが現状です。

お客様としては、たった1日でもプラントが止まると大きな損失になってしまいますから、1日、2日で何かしらの対応をしてほしい、というご要望をお持ちです。停止から復旧までの時間をいかに短くするか。そこは我々が常に心がけているところなので、そのために何らかの解決策が必要でした。また、人材不足もあり、対応可能な技術者が急いで現場へ駆けつけること自体が今後難しくなっていくという不安もあります。専門性が限られている拠点の営業マンや若手技術者が、現場に赴くだけでトラブル対応や判断ができるようになることは、お客様のためになることはもちろん、我々の会社としても大きなメリットがあるのではないか、と考えました。

DX導入後の成果

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現場とオフィスを映像でつなぎ、迅速にトラブルを確認

DXのひとつである遠隔支援の導入により得られたメリットは?

藤本:ポンプにトラブルが起こった際、まずは拠点の営業マンや若手技術者が現場へと駆けつけ、本社にいるベテラン技術者が映像を見ながら判断することが可能になりました。

佐野:導入により距離的なラグが潰せたことで判断スピードが非常に上がったと実感できました。

藤本:トラブルが起きた時、技術者だけでなく、営業や他部門のメンバーも含めて映像を確認できるようになり、その場の状況を理解しやすくなったのも良かったですね。
また、若手の育成にも役立っています。これまではOJT(オン・ザ・ジョブ・トレーニング)として2人1組で現地へ行って対応していましたが、OJTの一部を遠隔支援に置き換えられるかもという期待もよせています。
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遠隔支援の様子(現場側)
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遠隔支援の様子(オフィス側)

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ベテランによる遠隔支援が若手の大きな学びに

若手技術者の育成における課題は?

旧部署 産業本部 産業統括部産業統括課
グループリーダー佐野毅氏
藤本:中堅層が少なく、ベテランと若手の二極化が進んでおり、経験を次世代にどう伝えるかは大きな課題です。

佐野:入社から5年ほど経つと、社内で若手とは呼ばれなくなるものの、独り立ちにはまだまだ時間がかかります。“どこへ行かせても大丈夫”といえるまでには約15~20年はかかりますね。

藤本
:決まったトラブルばかりならいいのですが、現場のトラブルは本当にさまざまで……。Aのトラブルを想定して、そのトラブルに対する回答だけを持って現場に行ってみると、実はBというトラブルでした、というケースもよくあります。
トラブルの種類は無限にあるので、現場での経験が非常に重要になります。遠隔支援の活用や現場映像の記録により、若手技術者が、さまざまなパターンの対処法に触れる機会が増えていると思います。
ザクティのウェアラブルカメラを活用した遠隔支援は、ハンズフリーで作業の邪魔をしないだけでなく、現場の目線がリアルタイムで共有できるので、現場では今どこを見ているのかが手に取るようにわかり、「そこじゃなくて、もっと上、もっと奥」などコミュニケーションも取りやすいと感じています。

若手育成の手応えは?

サービス管理部 部長 武田誠司氏
武田:少しずつですが成果は出てきているように感じます。若手技術者はまだ経験が浅いので、現場での困りごとも多く、一人で判断するのが難しい場面も多々あります。若手が指示を仰ぎ、遠隔で我々ベテランがサポートすることで、彼らも大きな安心感を得ているようです。さらにその場で解決できた経験が蓄積されていくことで、次の現場で同じようなことがあっても対応できるようになってきていると実感します。

資料で見るのと現場で経験するのとではまったく違うので、“実際に現場を見ながら指示を仰ぐ”、このやり方には多くの学びがあると感じています。

導入による働き方の変化は?

藤本:若手技術者に長く働いてもらうためには、残業・休日出勤が多すぎない、急な出張が頻繁にないなど、働き方も大事になってきます。遠隔支援の導入で若手の出張を減らすことができれば、人材定着にもつながっていくのではと期待しています。
実際、私自身も以前は平日ほぼ毎日が出張で、本社にいるのは月1日程度。日本各地を飛び回っていたのですが、今では外出は週1日にまで減りました。出張が減ったのは個人的には少し寂しくもありますが、家族にはすごく喜ばれていますね(笑)。
また、我々の会社は全国に拠点があるのですが、地方出身の社員から「地元に帰って働きたい」という声が出たりもします。地方で働きながらも本社とつながれる環境があれば、その希望にも応えられますし、スキルアップやモチベーションの維持にもつながります。地方にいる=成長できないという誤解を払拭する意味でも、遠隔支援の役割は大きいと感じます。

04

映像という“バトン”でつなぐ。技術継承の新たなカタチ

遠隔支援への将来的な期待は?

武田:いろいろな業種のお客様がいらっしゃるので、我々のポンプを使っていただく現場もシチュエーションもさまざまです。そうした現場やシチュエーションごとに起こるトラブルなどを撮影して、記録としてどんどんと残していきたいですね。「こういった現場では、こんなことがあるんだ」「この場面では、これが必要だね」といったように記録のバリエーションは、次に現場へ行く技術者のヒントになりますから。事前に見せることで、現場のことをよりイメージしやすくなるのではと思っています。

今までは実際の現場の映像がほとんどなく、資料のみで状況を説明していたのが実情です。だからこそ、現場の様子をどんどんと撮っていきたい。記録したものが、我々の会社の技術資産そのものになっていくと信じています。

今後、DXで実現したいことは?

藤本:ベテラン技術者はトラブルの原因を探る際に、五感に頼る部分が多いです。聞こえる音だったり、目で見た違いだったり。ただ、そういった五感や記憶の部分は他の人に情報として渡せないので、五感に近い形で映像や音声を残すことにチャレンジしたいです。
技術者の五感に頼っていた部分を記録として明確に残せるようになれば、現場での判断にも役立ち、さらに今後はAIによる分析も進むのではと思っています。
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株式会社酉島製作所本社(大阪府高槻市)
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酉島製作所の遠隔支援の取り組みは、トラブル対応を効率化するだけでなく、人材不足や若手の育成といった業界共通の課題にも応えるものとなりました。経験豊富なベテラン技術者の判断力を、場所にとらわれず現場へ届けられるようになったことで、若手技術者も安心して挑戦でき、着実に力をつけています。

「遠隔支援」は単なる対処法ではなく、人を育て、技術をつなぎ、働き方を変えていく可能性を持ったDXの第一歩。離れた現場に寄り添うこの取り組みが、企業の未来を支える力になっていくはずです。


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